【筋の収縮速度と出力を高める】プライオメトリックトレーニングを理解しよう

筋トレ/スポーツ

皆さんはどんな目的で「筋トレ」していますか?

「筋トレ」というとボディメイクやダイエットなどをしている方向けのイメージが強いかもしれませんが、何かしらのスポーツをしている方にとっても筋トレは大事なトレーニングの1つであると思います。

ボディメイクしている方の筋トレの主な目的は「筋肥大」であるのに対して、スポーツをしている方の主な目的は「筋力出力の向上」や「動作パフォーマンスの向上」であることがほとんどではないでしょうか。

目的が異なれば筋トレの方法も当然変わってきます。

筋肉の発達原理はトレーニング負荷や方法に応じた反応であるので、目的に合わせた適切なトレーニング選定することが重要です。これができないと、せっかくトレーニングしたのにパフォーマンス向上に効果的に繋がらない可能性もあります。

例えば、陸上の高跳び選手が高重量のスクワットで大腿をゴリゴリムキムキに鍛えるとします。
一概に無駄なトレーニングとは言えませんが、より高いバーを飛び越えるという目的を狙った効果的なトレーニングと言えるでしょうか。

筋肥大を狙う場合は、高重量を挙げる、中重量で回数をこなして総負荷量を高める方法があります。

一方、スポーツの場面では重量や回数のみならず、場面に応じて短時間に大きな力を発揮することが要求をされます。

そういった要求は通常のレジスタンストレーニング(筋トレ)でももちろん向上しますが、より目的に適したトレーニング方法ももちろん存在します。

それが「プライオメトリックトレーニング」です。

今回はスポーツのパフォーマンス向上にも効果的なプライオメトリックトレーニングについて解説したいと思います。

この記事を通してスポーツでのパフォーマンス向上に役立つトレーニングについて知識を深めていただければと思います。

この記事でわかること
・プライオメトリックトレーニングとは
・プライオメトリックトレーニングの方法
・プライオメトリックトレーニングの効果

【筋の収縮速度を高める】プライオメトリクストレーニングを理解しよう

プライオメトリックトレーニングとは

プライオメトリックトレーニング(Plyometric Training)は「プライオメトリクス」や略して「プライオ」と呼ばれたりすることがあります。

プライオメトリックトレーニングは、筋肉が伸長された(遠心性収縮)直後に、伸長反射により筋肉を収縮させる(求心性収縮)ことで、短時間でより大きな筋力が発生しやすいという性質を利用して、強い筋出力とその速度を高めるトレーニングになります。

この性質は「ストレッチ・ショートニング・サイクル(ストレッチ短縮サイクル:SSC)」と言われています。

ストレッチ・ショートニング・サイクル(ストレッチ短縮サイクル:SSC)とは

筋活動には3つの種類が存在しています。

1.筋の長さが変化しない等尺性筋活動
2.筋が短くなる求心性筋活動
3.筋が長くなる遠心性筋活動

この筋活動の中でも、求心性筋活動の前に遠心性筋活動が加わると、求心性筋活動の力とスピード、パワー出力が増大1)します。この仕組みのことを「ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)」と呼びます。

例えば、「垂直跳」をイメージしてみてください。
「高く跳んで」と言われた時にあなたはどのような動作を行いますか?
大抵の人は「勢いよく沈み込む」ような「反動動作」を使った方が、反動を使わない直立状態から跳ぶような場合と比べて、より高く跳べるはずです。この「反動動作」となるのがストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)です。
目的の筋肉を収縮させる前に伸ばすことで、出力をあげるといった感じでしょうか。(ゴムみたいな感じです)

もう一度。
プライオメトリックトレーニングは「ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)を利用して、筋肉の収縮速度と出力を高めるトレーニング」になります。

では、ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)でなぜ大きな筋出力が発揮されるのかというメカニズムや実際のトレーニングについてみていきましょう。

プライオメトリックトレーニングのメカニズム

プライオメトリックトレーニングのメカニズムを理解するにあたって、押さえておくべき点が2点あります。
それはストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)に関与している
伸張反射
ゴルジ腱反射(Ib抑制)
です。

伸張反射

瞬発力を高める上で重要なポイントが「伸張反射」になります。
爆発的な短縮性筋活動を生み出すメカニズムには、「」の弾性と「筋紡錘」の弾性という2つのタイプがあります。
「筋」には、エラスチンと呼ばれるタンパク質でできた弾性線維が含まれており、この線維は伸びやすく、すぐに元の長さに戻る性質を持っています。
また、輪ゴムのように機能し、伸ばしたときに動作のパワーが増大するという特性があります。

筋繊維の他に、筋が活性化するときには筋と腱の接合部付近にある「筋紡錘」も働いています。
「筋紡錘」は筋内に生じた伸張量、速度の変化を感知します。

筋の急速な伸張と同時に信号が感覚神経を通って脊髄に送られると、そこで運動神経が刺激され、伸張していた筋が収縮します。
これを筋伸展反射または伸張反射と呼びます。
反射なのでこの働きは無意識で勝手に身体が起こす働きです。
(膝蓋腱反射が良い例です:膝を軽く叩くと、膝蓋腱および大腿四頭筋群が急速に伸張し、これに反応して大腿四頭筋群が収縮。このとき、大腿四頭筋群の収縮を抑制する拮抗筋群にもインパルスが伝達されています。)

ジャンプで着地の際に筋が急速に伸張すると、筋紡錘が活性化されてパワー出力が増大します。
筋紡錘は伸張速度に対する感受性を備えているので、伸張が速いほど、筋紡錘の活性化レベルが大きくなります。

自然な動作では、ほとんどの場合、筋紡錘と筋の弾性要素の両方が活性化されるため、SSC後のパワー出力増大は筋紡錘と弾性要素、両方の働きによるものと考えられています。

普通の筋トレでは「伸張反射を使う=反動を使う」ということになり、チーティングなどの目的でなければ使わない方がよいとされています。(ベンチプレスやスクワットで反動を使うことは代償動作として捉えられることがありますよね)

そのため、普通の筋トレの方法では瞬発力はあまり高まりません。

また、ゆっくり伸長する分には身体は伸張反射を起こしません
伸びる限界は私たちの意識下で感知できるためです。

瞬発力にはこの伸張反射が使われており、筋肉が伸ばされた反動を使って一気に収縮させることで、力強く速く動くことが可能となります。
そのため、トレーニングでもこの伸張反射をうまく使ってトレーニングする必要があるのです。

スポーツの場面ではこの伸張反射の働きを利用して素早く動く技術が多く確立されています。

ゴルジ腱反射(Ib抑制)

ゴルジ腱反射(Ib抑制)とは簡単に言うと「筋肉が伸ばされたとき筋肉の損傷を防ぐため筋肉を弛緩させる(緩める)反射」です。

….あれ?

さっきの伸長反射と逆?と思った方が多いと思いますが、その通り、伸張反射と反対の反射がゴルジ腱反射になります。

一見、反対の作用が同時に起こるため、矛盾が生じていると感じられますが、厳密には伸張反射は筋肉、ゴルジ腱反射は腱で生じる反射となっています。

また、ゴルジ腱反射は筋肉が急激に伸長されるような場面ではなく、継続して伸張されているような状況で発揮される身体の働きです。

「静的ストレッチ」を例にあげましょう。
静的ストレッチでは伸ばした位置で身体をキープします。そして、キープしていると筋肉が緩んでもう少しだけ深く関節を曲げることが出来るようになりますね。これがゴルジ腱反射による筋肉の弛緩効果です。

ゴルジ腱反射が起きるほど長い時間、筋肉を伸張することは収縮速度を高めるためのトレーニングにおいては良いことではありません。

そのため、プライオメトリックトレーニングにおいてはゴルジ腱反射が起きないような速度でトレーニングする必要があります。(要は速いトレーニング様式)

ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)で大きな力が発生する理由

前段で伸張反射とゴルジ腱反射(Ib抑制)を確認しました。

次に、ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)において大きな力が発生する順序をみていきます。

大きくは以下の流れです。

①筋が急激に引き伸ばされることに対する伸張反射の働き

②ストレッチによって貯蔵された筋や腱の弾性エネルギーが短縮局面で再利用される

③短縮局面の開始前に、より大きな筋力に到達できる
(このようにして増大する筋力はゴルジ腱反射によって一部分は抑制されていると考えらています)

したがって、トレーニングを行う際は①〜③で示した流れが効果的かつ必然的に生じるような場面を設定し、意識的にそうした機能を引き出しつつ、ゴルジ腱反射を抑制することを意識することが重量になってくることがわかりますね。

ではプライオメトリックトレーニングで効果的にトレーニング効果を引き出すために留意することは何でしょうか。

プライオメトリックトレーニングの留意点

ここまでの解説を踏まえると、プライオメトリックトレーニングにおいて重要なのは「速度」にありますね。
伸張反射を引き起こし、それをエネルギーとして大きな筋出力発揮につなげる必要があります。

速度」、つまり「素早く収縮するような刺激」を与えることで収縮速度を向上させることができます。
素早く収縮させるといっても自分の意思で収縮させるようなスピードはコントロールできる速度という意味で効果がありません。(あまりに遅すぎるとゴルジ腱反射による抑制効果が大きくなってしまいます)

収縮時間

収縮時間は短い方が良いです。
伸長反射による筋肉を伸長→収縮の流れを円滑にかつ短時間で行うことが、プライオメトリックトレーニングの効果を最大限に引き出すポイントになります。

休息時間

プライオメトリックトレーニングは伸長した筋肉を反射によって無理矢理収縮させます。

つまり、筋肉に対する負荷が非常に大きいということです。

無理なトレーニングは故障に繋がりますので、適切な休息時間を設定し、オーバートレーニングになってしまわないように注意しましょう。

プライオメトリックトレーニングの方法

実際のプライオメトリックトレーニングをみていきましょう。

プライオメトリックトレーニングの順序

プライオメトリックトレーニングは以下の相に分けられます。

プライオメトリックトレーニングの順序
①ランディング(着地)期
②アモチゼーション(償却)期
③テイクオフ

ランディング(着地)期

ランディング期は、筋に伸張性筋活動が生じた時点で始まります。
急速な伸張性筋活動の働きで筋の弾性要素が伸張し、伸張反射が生じますランディング期では、大きな伸張性筋力が必要となるため、筋力が不十分だと伸張速度が遅くなり、伸張反射の活性レベルが低下してしまいます。

2)より引用、筆者編集

着地の際は、膝をつま先の真上に位置させ、上体をやや前傾させ、顔を正面に向けて背中を真っ直ぐ伸ばした姿勢になるのが適切とされています。

アモチゼーション(償却)期

着地した状態のアモチゼーション期は、プライオメトリックエクササイズの最も重要な部分になります。ランディングからテイクオフまでの所要時間であり、パワーの発達に不可欠なものです。アモチゼーション期が長すぎると、伸張反射が失われ、プライオメトリックスの効果は薄くなります。このアモチゼーション期の時間をいかに短くするか、がポイントです。

テイクオフ

テイクオフはランディング後に生じる短縮性筋活動です。テイクオフ期には、蓄積された弾性エネルギーが使われて跳躍高と爆発力が増大します。

代表的なプライオメトリックトレーニング

・ボックスジャンプ

・アンクルホップ

その他
・バウンディング

・メディシンボール投げ
などトレーニングの幅は非常に広いです。

プライオメトリックトレーニングの効果

プライオメトリックトレーニングの効果は大きく以下の通りです。

・ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)の機能を改善し、爆発的なパワー発揮能力(瞬発力)を高められる。

・爆発的な筋出力(パワー発揮能力)の向上により、これに関連するスプリント能力、ジャンプ能力、アジリティー(敏捷性)等を高められる。

プライオメトリックトレーニングは瞬発力を使う様々なスポーツの役に立ちます。

陸上競技の短距離だけでなく、高くジャンプする跳躍種目、爆発的なパワーが求められる投てき種目にも重要です。他にも、バスケやサッカーなど走る・跳ぶ動きが多い種目にも効果的です。

対象競技やトレーニング歴によって、構成メニューにも様々な幅が考えられます。

お気軽にコメントやメッセージ等いただければ、最適なトレーニング内容を検討するとともに、疑問点なども解決できればと思います。

まとめ

◆プライオメトリックトレーニング
ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)の機能を改善し、収縮速度、爆発的なパワー発揮能力(瞬発力)を向上させる
→トレーニングの際には「速度」を意識する(接地時間をできるだけ短く
◆収縮速度を鍛えるために伸張反射の働きを活用する

→伸張反射は過度に筋肉が伸びようとした時に筋肉を収縮させる身体の反射
◆プライオメトリックトレーニングによる筋肉の収縮速度、出力の向上はスポーツのパフォーマンス向上に繋がる
ぜひ、トレーニングに取り入れてみてはいかがでしょうか。

参考文献

1)サエス・デ・ビジャレアル、エドゥアルド; レケナ、ベルナルド; クローニン、ジョンB スプリントパフォーマンスに対するプライオメトリックトレーニングの効果:メタ分析, Journal of Strength and Conditioning Research: 2012年2月-第26巻-第2号-p 575-584
土井:10.1519 / JSC.0b013e318220fd03

2)Introduction to Plyometrics: Converting Strength to Power,NSCA’s Performance Training Journal,2010,Volume17 Number 6,pages 56-59

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