ダイエットを始める場合、食事制限と運動は一緒に行うべきでしょうか?それともどちらかを優先すべきでしょうか?
前提として、ダイエットの効果は「エネルギー摂取量とエネルギー消費量によるエネルギーのバランス収支」で決定されます。
そのため、食事制限によりエネルギー摂取量を減少させ、運動によりエネルギー消費量を増加させることはエネルギーのバランスを大きくマイナスにすることから、ダイエット(体重減少)の効果を高めることが期待できます。
しかし、栄養学や運動整理学の最近の知見ではダイエット初期段階の場合は食事制限から優先して行うことが推奨されています。
今回は、痩せたいなら”運動”よりも”食事管理”を最優先にすべき理由をエビデンスに基づいて解説します。

ダイエットを始める時、食事制限と運動を組み合わせて行うことが多い印象です。食事制限から優先して行うことが推奨とは….興味深いですね。
痩せたいなら”運動”よりも”食事管理”を最優先にすべき理由をエビデンスに基づいて解説
短期的な減量では”食事制限のみ”でも効果的
これまでの研究結果により「食事制限のみでも十分に体重を減少させる可能性がある」ことが分かっています。
Johnsらによるメタアナリシス1)を紹介しましょう。
研究概要は以下になります。
【被験者】肥満または太り過ぎの男女1,022名(32〜70歳)
【内容】食事制限のみ、運動のみ、食事制限+運動による短期(3〜6ヶ月)の体重の減少効果について解析。
▶食事制限:エネルギー摂取制限
▶運動:週3〜5回の中程度~高強度のウォーキングやジョギング
その結果、「”食事制限のみ”のグループと”食事制限+運動”のグループでは、”食事制限+運動”のグループで体重が減少しやすい傾向が認められましたが、両グループに有意な差は認められない」としています。
また、「”運動のみ”のグループと”食事制限+運動”のグループでは、”食事制限+運動”のグループで体重減少の効果が認められた」としています。
つまり、短期間のダイエットにおいては、”食事制限のみ”でも”食事制限+運動”を行った場合でも体重減少の効果に差がないということになります。
加えて、”運動のみ”よりも”運動+食事制限”の方が体重減少の効果が高いということから、短期間のダイエットでは食事制限が重要な要素であることがわかります。
ダイエットを始めてから3ヶ月~6か月の短期間では、食事制限のみに注力しても十分に体重を減少させる可能性が考えられます。
なぜ”食事制限のみ”でも減量効果があるのか
なぜ短期間のダイエットでは、食事制限のみでも十分な体重減少の効果が得られやすいのでしょうか
ダイエットを始めて数週間という初期段階では、食事制限をするだけでも体重が大きく減っていく傾向があります。しかし、時間が経つにつれ、同じ食事制限をしていても痩せにくくなっていきます。

自分も同じ経験をしたことがあります。心が折れかけました。。。
これには理由があります。それは「ダイエット初期と後期では体重1kgを減らすためのエネルギー量が異なる」からです。
Heymsfieldらの研究2)を紹介します。Heymsfieldらは、ダイエットを始める被験者を対象とし、ダイエット開始から6ヶ月間における体重1kgを減らすためのエネルギー量を計測しました。
その結果、体重1kgを減らすためのエネルギー量は、ダイエット開始時と比較し、24週目には約2倍となりました。
これは、ダイエット初期段階では少しの食事制限でも痩せやすいが、その後も体重が減少し、開始から6か月後以降に入ると同じ食事制限では痩せにくいということを意味しています。
なぜ、ダイエットのフェーズによって体重1kgを減らすためのエネルギー量が異なるのかというと、フェーズによって体重減少の要因が異なるからです。
ダイエット初期段階に生じる体重減少は、主に水分やグリコーゲン、タンパク質の損失に起因しています。そして、時間が経つと徐々に脂肪が減少していきます。このようにフェーズによって体重減少の因子が異なることにより体重1kgを減らすためのエネルギー量が異なるのです。
冒頭でも記載しましたが、エネルギー摂取量を減少させ、運動によりエネルギー消費量を増加させることはエネルギーのバランスを大きくマイナスにすることから、ダイエット(体重減少)の効果を高めることができます。しかし、ダイエット初期は体重1kgを減らすためのエネルギー量が比較的少ないことから、食事制限のみでも十分にダイエット効果が期待できるのです。
”食事制限”が”運動”よりも取り組みやすい
「ダイエット」と聞いて真っ先にやめるべきはファストフードだと誰もがイメージできると思います。ファストフードのような加工食品(フライドポテトやハンバーガーなど)はエネルギー密度が高いため、肥満の要因となりやすいです。
そんなファストフードを例にして、具体的なエネルギー量をみてみましょう。
ハンバーガーセットのポテトをサラダに変更したとします。
ポテト(Mサイズを想定)のカロリー量は約450kcalであるため、ポテトをサラダに変更するという食事制限だけで、約400kcalのエネルギー摂取量を減らすことができます。
たかがポテトを変更したくらいで。。。と思うかもしれませんが、ポテトと同じ約400kcalのエネルギー量を消費するにはどの程度の運動を行う必要があるかご存じでしょうか。
運動による消費カロリーは以下の計算式で表されます。
ランニングのMETsは、走る速度によって8.0~15.0程度となるのが一般的です。(8.0METsは分速133m、時速8.0km程度の強度と言われています。)ここでは一番負荷が低い8.0METsとしましょう。
体重は60kgとした場合、以下のようになります。
400=8.0×60×運動時間×1.05
→運動時間=0.7936…..≒0.8
つまり、ポテトの400kcalのエネルギーを消費するには、ジョギングを約48分行う必要があることが推定できます。
ポテトをサラダに代えるだけで約400kcalのエネルギー摂取量を減少させることができますが、400kcalを消費したい場合、約48分間のジョギングをする必要があります。
つまり、食事制限によってエネルギー摂取量を減らした方が、長時間の運動をしてエネルギー消費量を増やすよりも簡単で効率的であることがわかります。
ダイエット始めたての時期は、体重1kgを減らすためのエネルギー量が少ないため「痩せやすい時期」であると言えます。この期間で、追い込んで運動を追加するという高いハードルを設ける必要はありません。簡単な食事制限によってエネルギー摂取量を減少させることで十分に体重を減らすことができるのです。

運動をした方がよりエネルギーを消費できると思っていたのですが。。運動をする場合、長時間、または負荷を上げる必要があるのですね。食事制限を行う方がよっぽどシンプルで手っ取り早いと思いました。
ダイエットを続けるためには?
ダイエット初期から”食事制限”+”運動”という高いハードルを設定してしまうと「ダイエットが続かない」という壁に当たることがありますよね。
ポテトをサラダに変更することは簡単にエネルギー摂取量を減らしますが、大好きなポテトを我慢する必要があります。
しかし、いくらダイエットに燃えているとしても私たちは人間です。仕事が忙しかったり、人間関係でのトラブルによってストレスが溜まれば、ポテトの誘惑にも勝てずに、ポテトをサラダに変更することなく食べてしまうのではないでしょうか。
Haggerらの研究3)では、ダイエット中の被験者に片足立ちをしながら難しい課題を行うと、簡単な課題のみを行った被験者よりも、その後に出されたチョコやクッキーなどのスイーツを多く食べてしまうことが報告されています。
困難な課題に直面した場合、自身の制御ができなくなる可能性があります。つまり、食事制限を継続するには自身の制御を適切に行う必要があるのです。
では、運動を行うことは自身の制御に影響を及ぼすのでしょうか?
Colleyらの研究4)では、食事制限と運動を同時に行った場合、監視されない条件下では運動を高いレベルで行えず楽をしてしまい、運動を続けられない傾向があることを報告しています。
ダイエット初期フェーズでは、食事制限にも慣れておらず、体重減少の効果も中々感じることができません。そこに、運動の負担が加わることにより、自身の適切な制御ができなくなる可能性があります。こうなった場合、ダイエット自体、継続が困難になります。
ダイエットに慣れるということ、適切に自身の制御を行うという観点から、まずは食事制限のみを行い、食事制限に慣れ、体重減少の効果を実感できてから運動を追加しても遅くはないと考えられます。
まとめ
ダイエット初期の短期間(~6か月)では、”食事制限のみ”でも”食事制限と運動”をセットで行っても体重減少の効果に差がないことが示されています。
もちろん、食事制限と運動をセットで行えればダイエット効果は高まります。
しかし、以下の点からダイエットは”食事のみ”から始めることが有効であると考えられています。
◆”食事制限のみ”でも簡単にエネルギーのバランス収支をマイナスにできる
◆”食事制限のみ”だと自身のコントロールをしやすい
◆ダイエットの継続性を高めることができる
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