筋トレで「部分痩せ」は嘘?本当?科学的エビデンスに基づいて解説

筋トレ/スポーツ

メリハリのある身体を作るために、必要な部分の脂肪は残しつつ、不要な部分の脂肪を減らしたいと考える人が多いのではないでしょうか。

最近では、「腹筋をして、ウエストを細くする」、「脚のトレーニングをして、脚を細くする」というように、筋トレで気になる部分の脂肪を落としましょう、という風潮があります。

いわゆる、「筋トレで、部分痩せ」です。

実際に、近くの書店やネットでは部分痩せを狙う内容のものが多く存在しています。

そして、近年の健康志向ブームに乗っかり、気になる部分の脂肪を落とせるなら、、と筋トレを始めた方も多くいるのではないでしょうか。

ですが、残念ながら「筋トレで、部分痩せ」に関しては、否定的な見解が集まっています。

以前は、局所的なトレーニングにより、その部分の脂肪量が減少すると考えられていましたが、近年の計測技術の発展により局所的な部分痩せはしないという研究報告が蓄積されてきたのです。

今回の記事では、「筋トレでの部分痩せ」に関する研究報告を紹介しつつ、メカニズムに基づきその真相に迫りたいと思います。

筋トレで「部分痩せ」は嘘?本当?科学的なエビデンスに基づいて解説

筋トレで部分痩せが難しい理由

「部分痩せ」に触れる前に私たちのエネルギー代謝について、前提知識を整理しておきます。

人のエネルギー源

私たちの動作は全て、筋肉の収縮で起こっています。

そのエネルギー源が”ATP(アデノシン三リン酸)”です。

動作を継続するためには、ATPを分解して、エネルギーを生成する必要がありますが、筋肉には存在するATPが少なく何らかの形で補う必要があります。

その補う方法には、下記の3パターンがあります。

・クレアチンリン酸系
・解糖系
・有酸素系

この補給方法は運動の強度や時間で使い分けられています。

筋トレは脂肪がエネルギー源になりにくい「無酸素性代謝」に該当する

それぞれの運動強度や時間をみていきます。

クレアチンリン酸系は、高強度短時間の運動により、筋肉にあるクレアチンリン酸を分解してATPを補充します。

解糖系は、中強度中程度の時間の運動により、筋肉にある糖を分解してATPを補充します。

この中〜高強度の運動で行われるエネルギー補充方法は、酸素を使わずにATPを補充するため、「無酸素性代謝」ともいわれています。

そして、筋トレは、中~高強度の短時間の運動に該当することが多く、無酸素性代謝に該当します。

一方、軽い強度のランニングやウォーキングでは、筋肉のミトコンドリアが酸素を使用してATPを生成します。エネルギーを生み出す材料は脂質です。こちらは有酸素系に分類され、低強度で長時間の運動が対象となります。


このように筋肉へのエネルギー補充は、運動強度や運動時間に応じてその方法が異なっています。

ここから分かることは、エネルギー代謝の仕組みから、筋トレでは脂質がエネルギー源として使われにくいということです。

つまり、筋トレで部分痩せはエネルギー代謝の仕組み上、難しいのです。

では、部分痩せしたい部位の筋トレを低強度かつ長時間行えば、脂肪がエネルギー源となり、減少するのでは?という疑問がでてきます。

次の章でハムストリングスに対する低強度の筋持久力トレーニングを行った研究例を紹介します。

低強度・長時間の筋トレでは「部分痩せ」するのか?

Campilloらによる比較臨床試験の報告1)を紹介します。

研究概要は以下の通りです。

被験者:男性7人と女性4人(年齢23±1歳)
トレーニング内容:非効き脚のハムストリングスに対する低強度の筋持久力トレーニング。具体的にはレッグカールを低強度(最大筋力の30%以下)で持続的(疲労困憊になるまで)に実施。
期間:12週間
頻度:週3回
エネルギー摂取:試験期間中は一定量のエネルギー摂取
計測:研究前後で全身および大腿部の体脂肪量、体脂肪率を計測

その結果、試験前後で非利き脚の脂肪量及び体脂肪率に有意な減少は認められず、利き脚との有意な差も認められませんでした。

一方で、試験前に比べて、試験後は全身の体脂肪量の減少が認められ、上腕部と腹部の体脂肪量にも有意な減少が認められました。

これらの結果から、低強度で長時間の脚の筋トレを行っても脚の脂肪量は減らない(部分痩せはしない)ことが分かりました。

「部分痩せ」が成立するなら、脚の筋持久力トレーニングを行えば、脚の脂肪量が減少するはずですが、そのような結果は得られませんでした

では、なぜ脚のトレーニングを行ったのにも関わらず、全身、上腕部、腹部の脂肪量が減少したのでしょうか。

有酸素系のエネルギー代謝は全身性に生じる

先ほどの研究例のような脚の筋持久力トレーニングは有酸素系のトレーニングになります。

有酸素系のエネルギー代謝は脂質の酸化を促し、脂肪量を減少させます

ですが、この減少効果は部分的ではなく、全身性に発生するのです。

それは”アドレナリン”というホルモンの影響を受けているとされています。

低強度の運動を長時間継続すると、副腎からアドレナリンが分泌されます。

アドレナリンの分泌量が増加すると、ホルモン感受性リパーゼが活性化することによって脂肪組織から脂肪酸が血液中へ放出され、他組織でエネルギー源(ATP)として消費されます。

そして、分泌されたアドレナリンはトレーニングをした部位だけでなく、血管を通じて全身に輸送されます。

全身性に脂肪量の減少効果が現れる理由は、ここにあるのです。

下半身よりも上半身の方が痩せやすい

低強度かつ長時間実施する有酸素系トレーニングにより、全身性の脂肪減少効果を得ることができます。

ここでの疑問は”全身が均等に脂肪減少していくのか?”ということです。

実は、これまでの研究では下半身よりも上半身の方が脂肪量が減少しやすいことが分かっています。

脂肪組織から血液中に放出された脂肪酸はミトコンドリアにより酸化(分解)されますが、このプロセスが下半身よりも上半身において生じやすい2)とされているからです。

例えば、腹部と大腿を比較すると、腹部の方が大腿の脂肪細胞よりもアドレナリンを受け取るアドレナリン受容体が多いことが分かっています3)

前述した研究例で、脚の筋持久力トレーニングで脚よりも腹部の脂肪量減少が有意に認められましたが、その理由は対象部位のアドレナリン受容体の数の差にあると考えられています。

まとめ

結論、「筋トレでの部分痩せは難しい」ということです。

■筋トレは、無酸素性代謝であるため、クレアチンリン酸や解糖系によってエネルギーが消費される→これらは脂肪をエネルギー減としない為、脂肪の減少効果は生じにくい

■低強度&長時間の筋持久力トレーニング(有酸素)を行った場合、有酸素系のエネルギー代謝となる→脂肪の減少効果が期待できるが、この効果はアドレナリンにより全身性に生じること、上半身と下半身で効果に差があることから、局所的な筋トレをしても”部分痩せ”することはできない

痩せるためには正しいメカニズムの理解と戦略が重要になります。(以下は参考まで)

もし、痩せたい部位があるならば、まず取り組むべきことは筋トレではなく、”食事の見直し”です。その理由は、運動よりも脂肪の減少効果が高いからです。

食事管理を行いながら、炭水化物や脂質の正しい知識を得ながら見極めをしっかり行います。併せて、タンパク質を摂取することにより、食欲を抑え、筋肉量の減少を防止します。(当然、ジャンクフードなどの加工食品はNGです!)

食事管理ができたら、有酸素運動を取り入れます。有酸素運動は全身の脂肪を効果的に減少させることができます。

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効果的に”痩せる”ためには、正しい方法と知識でアプローチする必要があります。ダイエット関連のメカニズムや方法論については、別途まとめたいと思います。(健康系の記事は以下から見れます)

ご要望等があれば気軽にメッセージください~^^

参考文献

1)Ramírez-Campillo R, Andrade DC, Campos-Jara C, Henríquez-Olguín C, Alvarez-Lepín C, Izquierdo M. Regional fat changes induced by localized muscle endurance resistance training. J Strength Cond Res. 2013 Aug;27(8):2219-24. doi: 10.1519/JSC.0b013e31827e8681. PMID: 23222084.

2)Horowitz JF. Fatty acid mobilization from adipose tissue during exercise. Trends Endocrinol Metab. 2003 Oct;14(8):386-92. doi: 10.1016/s1043-2760(03)00143-7. PMID: 14516937.

3)Bouchard C, Després JP, Mauriège P. Genetic and nongenetic determinants of regional fat distribution. Endocr Rev. 1993 Feb;14(1):72-93. doi: 10.1210/edrv-14-1-72. PMID: 8491156.

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