【肥満と認知機能の関係】太ると頭が悪くなる?〜メカニズムをご紹介〜

健康

前回の記事では、肥満が認知機能に与える影響とそのエビデンスを紹介しました。

内容を簡単にまとめると以下の通りです。

肥満では認知機能の低下が認められました。その機能は抑制コントロール、ワーキングメモリ、認知の柔軟性、意思決定、話の流暢さ、計画の実施といった認知機能全般に渡ります。また、これらの認知機能低下に年齢、性別は影響しないということが推測されています。
太ると認知機能が低下することが示唆されていますが、その原因は何でしょうか。
今回は、肥満と認知機能低下のメカニズムを紹介していきます。

【本当?】肥満注意!太ると頭が悪くなる?〜メカニズムをご紹介〜

認知機能低下の原因は”慢性炎症”

肥満になると高血圧や心臓病などのリスクが高くなります。
これはなんとなく皆さんもイメージがつきますよね。
そういった病気のリスクが高まる要因のひとつに「慢性炎症」があります。

人の身体には本来、脂肪細胞には炎症を抑えるM2マクロファージが存在しており、炎症から守ってくれています。

しかし、過度に糖類や脂質を摂取し、脂肪細胞が肥大化してしまうと状況が変化します。

Weisbergらの研究によると、脂肪細胞の肥大化はM2マクロファージの働きを弱め、炎症を促進するM1マクロファージを増加させてしまうことを示しています。1)

菅波らは、M1マクロファージから分泌されるTNFαは、脂肪細胞からの飽和脂肪酸(FFA)の分泌を促進し、飽和脂肪酸はM1マクロファージの受容体であるTLR4に作用することによってM1マクロファージを活性化させると報告しています。2)

このような形で悪循環が生まれることにより、慢性炎症が発生します。

この慢性炎症が高血圧や心臓病のリスクを高め、さらには認知機能低下のリスクを招きます。

“慢性炎症”が認知機能に悪影響を与えるメカニズム

では、慢性炎症が認知機能に悪影響を及ぼすメカニズムを紹介します。

Castanonらは以下のような報告をしています。

慢性炎症に伴い、脂肪細胞から炎症性サイトカインや遊離脂肪酸が血液中に放出されます。放出された炎症性サイトカインは脳に作用して、抑制コントロールを司る前頭前野や記憶に関与する海馬などの神経回路を損傷します。さらにサイトカインは神経発生を妨害し、神経毒性効果を誘発する可能性が示唆されています3)

このようなメカニズムにより、肥満による慢性炎症が認知機能を低下させる要因であると考えられています。4)

疑問さん
疑問さん

このメカニズムは本当なのですか?

ざっきー
ざっきー

検証した研究があるので紹介しますね。

Lasselinらは、炎症反応が高い肥満の被験者、炎症反応の低い肥満の被験者、肥満でない被験者を対象に認知機能への影響を調査しました。この研究では、炎症反応の指標とされるC反応性タンパク質(hsCRP)の値によって炎症反応のレベルを分類しています。

その結果、炎症反応が高い(C反応性タンパク質が高い)肥満者は、炎症反応が低い(CRPが低い)肥満または非肥満者よりも認知機能のテストで間違い(エラー)が有意に多くなりました。また、炎症反応が低い肥満者は非肥満者よりも間違い(エラー)が多くなる傾向が示されました。

この結果から、肥満で慢性炎症が生じると認知機能の低下が促進されてしまうことが示唆されているのです。

まとめ

太ることは慢性炎症を誘発し、心臓病や高血圧といった心血管疾患などの発症リスクを高めるだけでなく、認知機能を低下をも招く可能性があります。

また、Lasselinらは研究の結びとして肥満による認知機能の低下を前提とするならば、ダイエットの際には食事や運動管理だけではなく、認知機能にもアプローチする包括的なダイエットプログラムの必要性を唱えています。一口に”ダイエット”といっても実は奥が深いですね。

疑問さん
疑問さん

太ると認知機能が低下するばら、痩せれば認知機能は高まるのですか?

ざっきー
ざっきー

面白い視点ですね。またの機会に「減量と認知機能の関係」について、記事にしたいと思います。

参考文献

1)Weisberg SP, McCann D, Desai M, Rosenbaum M, Leibel RL, Ferrante AW Jr. Obesity is associated with macrophage accumulation in adipose tissue. J Clin Invest. 2003 Dec;112(12):1796-808. doi: 10.1172/JCI19246. PMID: 14679176; PMCID: PMC296995.

2)Suganami T, Tanimoto-Koyama K, Nishida J, Itoh M, Yuan X, Mizuarai S, Kotani H, Yamaoka S, Miyake K, Aoe S, Kamei Y, Ogawa Y. Role of the Toll-like receptor 4/NF-kappaB pathway in saturated fatty acid-induced inflammatory changes in the interaction between adipocytes and macrophages. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007 Jan;27(1):84-91. doi: 10.1161/01.ATV.0000251608.09329.9a. Epub 2006 Nov 2. PMID: 17082484.

3)Castanon N, Lasselin J, Capuron L. Neuropsychiatric comorbidity in obesity: role of inflammatory processes. Front Endocrinol (Lausanne). 2014 May 15;5:74. doi: 10.3389/fendo.2014.00074. PMID: 24860551; PMCID: PMC4030152.

4)O’Brien PD, Hinder LM, Callaghan BC, Feldman EL. Neurological consequences of obesity. Lancet Neurol. 2017 Jun;16(6):465-477. doi: 10.1016/S1474-4422(17)30084-4. PMID: 28504110; PMCID: PMC5657398.

5)Lasselin J, Magne E, Beau C, Aubert A, Dexpert S, Carrez J, Layé S, Forestier D, Ledaguenel P, Capuron L. Low-grade inflammation is a major contributor of impaired attentional set shifting in obese subjects. Brain Behav Immun. 2016 Nov;58:63-68. doi: 10.1016/j.bbi.2016.05.013. Epub 2016 May 17. PMID: 27223095.

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